くだらない噂話のネタばかり提供しおって

 この10年くらいの内に世相が大きく変わってきて、今までならありえなかった事件事故が起きるようになってはいたが、これまでほとんど舞台になって来なかった大学で殺人事件が起きたことに、何か堰が切られたような怖れを抱いているのは僕だけだろうか。

 大学を舞台にした殺人事件では十数年に、筑波大学で「悪魔の詩」事件があった。しかしその後は僕の記憶ではなかったはずだ。筑波事件当時から比べると、情報の伝達は何十倍にも速くなり、(質の良いものもだが残念ながら悪いものについても)情報が簡単に手に入るようになった。にもかかわらず、大学でだけは長らくこの種の事件が発生しなかったことに、僕は、ささやかな社会の健全性を見出すことができた。キャンパスの内をメタメタに破壊することはわけのないことだけれども、高等教育の現場としてのある種の気高さや、誰でもキャンパスに受け入れるオープンな雰囲気に対して、社会がそれなりに尊敬を払っているのだろうと思っていた。

 しかし、今回の事件を受けて、そのあたりのギリギリのバランスが崩壊してしまったのじゃないか、という怖さを、僕は心の底から感じている。

 ニュース報道が、原因はなにか、犯人はどこへ消えたか、といった話しかしないのは一体どういうわけだろう。そんなことは遺族と、現場となった大学と、警察と、犯人だけが考えればいいことだ。くだらない噂話のネタばかり提供しおって、今回ほど、ニュースメディアが醜悪に見えたことはない。

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